樋口範雄・東大名誉教授

 「あえて強めに言えば、読んでみて、がっかりですよ」

 国が示した「高齢者等終身サポート事業者」のガイドライン案を、英米法や高齢者に関する法律に詳しい東京大学名誉教授の樋口範雄さん(72)は厳しく批判します。身寄りがない高齢者に、入院・施設入所時の身元保証や、死後対応などのサービスを提供する事業の「健全な発展」と、利用者の安心をめざすガイドライン案は、どこが問題なのか。自らも最近、入院を経験したという樋口さんに聞きました。

      ◇

 ――「がっかり」ですか。

 このガイドラインで誰が喜ぶのか、安心できるのか疑問です。実際、困っている人はいっぱいいて、私もひとごとではないのだから、あなたにも聞きたいですよ。どうしたらいいですか。

 ――身寄りがない状態で老後を迎える人が増えていて、家族や親族が担ってくれたようなことをする人がいない。だから、サービスを提供する事業者が増えていて、消費者トラブルも増えているのが現状ですね。

 子どもがいたって子どもも忙しいですから、なかなかやっていられない。ニーズはあって、困っている人は増えているのだから、民間事業者が出てくるのは当たり前のことです。

 ただ、民間事業者があまり強欲だと困ってしまう。事業者が健全に成長することは大事ですから、もうちょっと工夫したものが出てくると思ったら、これは残念だと思いました。

 ――たとえば、どこでしょうか。

 今回のガイドラインが、亡くなる前のサービスと亡くなった後のサービスを分けないで考えていることは、いいことだと思います。誰もがいずれ死ぬわけだし、生前と死後をつなげるのは重要な発想です。

 しかし、ガイドラインの対象は、具体的には「身元保証等サービス」と「死後事務サービス」を提供する事業者と書いてあります。本来は、孤独・孤立の高齢者には、生活支援サービスも必要ですね。

 ――サービス内容としては、「死後事務」では葬儀や火葬、公共料金の解約手続きなど。「身元保証」は入院・入所時の連帯保証や、死亡・退去時の身柄引き取り、緊急連絡先の指定などをあげています。

「身元保証法」対象は雇用関係のみ

 私も入院したばかりですが、身元保証人を要求するという昔ながらの制度は、もうやめた方がいい。

 だいたい、身元保証法という法律は昭和の初期にできたのですが、対象は雇用関係だけです。しかもそれ自体が古い概念です。借金するとき、本来はものを担保にするのが普通なのですが、日本はずっと人的保証を使ってきた。多くのほかの国ではそんなことはありません。

 ――英米法がご専門ですが、英米ではどうなのでしょうか。

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